音楽アルバム 『ABUKUMA』    たくき よしみつ ライナーノート

曲目:

1 カムナの調合(Remix Ver.)  4.03
2 グレイの鍵盤(Cello Ver.)  7.26
3 無言歌(Remix Ver.)  5.34
4 ムササビブルース  4.28
5 Home In The Rain  6.37
6 森からの信号  5.43
7 アンガジェ  6.58
8 鶴(Remix Ver.)  4.17
9 悠久 -森の祈り-  3.30
10 阿武隈のクリスマス  2.38
11 カムナの調合(弾き語りVer.)  4.46

 1 カムナの調合(Remix Ver.)  4.03

たくき よしみつ 作詞・作曲 (アルバム『So Far Away』の収録曲だが、間奏を別バージョンに入れ替え)
Musicians
 たくき よしみつ:Vocal、Guitar、Keyboards    堺敦生:Keyboards    吉原寛治:Guitar Solo


今、いちばん好きな曲がこれ。3.11より前に書いたものだけれど、原発震災で阿武隈の森が汚されてからというもの、この歌詞の意味がさらに深くなったと感じている。
アルバム『So Far Away』に収録したテイクでは、吉原センセが後から間奏のギターソロをやり直したいと自己申告してきた。
送られてきたのはレベルが小さすぎて使えないデータだったが、無理やりにノーマライズ処理して、リバーブを深くかけて、注意深く聴かなければ音質の悪さが分からないように加工したものを組み入れてみた。
最初のテイクと2つ、間奏のサンプルを何人かに聴かせてみたが、概ね最初のテイクのほうが好評だった。
とくにうちの助手さんが「あれを差し替えるのは許せない」と強硬に主張したし、アドバイスをくださっていた元コロムビアレコードのディレクター岡田謙さんが「どちらも素晴らしいですが、曲にあっているのは最初のテイク」とおっしゃったので、吉原センセの要求を却下して、最初のテイクを採用。
今回は、どうせならと、別テイクを入れてリミックスしてみた。

 2 グレイの鍵盤(Cello Ver.)  7.26

たくき よしみつ 作曲   (未発表録音)

この曲だけでなく、チェロをメインにした「セロジャンプロジェクト」というのを考えていた。
何人かのチェリストに依頼したのだが、いろいろあって、結局、シミュレーションに甘んじた。
死ぬまでに、ちゃんと本物のチェリストが演奏するのを聴いてみたい。

 3 無言歌(Remix Ver.)  5.34

小松洋支 作詞、たくき よしみつ 作曲
Musicians
 たくき よしみつ:Vocal、Guitar、Chang   鈴木哲士:Guitars

『無言歌』は小松くん(現在、電通勤務)が聖光学院の中学生のときに、同級生の工藤くん(現在、聖光学院の校長)が呼びかけて作った「文芸同志会」の会報に発表した詩に、僕が大学に入ってから曲をつけたもの。
タヌパックの最初のアルバム『狸と五線譜』に収録したのと、『So Far Away』で録り直したものがあるが、これは最初の『狸と五線譜』に入れたもの。
てっちゃんの神がかったギターが素晴らしい。
録音したのは1980年代後半だと思う。まだ「打ち込み」はない頃で、デジタル録音も主流ではなかった。
FOSTEX の R8という9mmオープンリールテープに8トラック入れるという無茶な設計のMTRで録音している。
太鼓は、どこかの店で衝動買いしたチャンゴ(朝鮮の太鼓)を僕が素手ででたらめに叩いている。
てっちゃんは僕が持っていたカワセのMasterというオール単板のアコースティックギターを、僕は田村博の一番安いフラメンコギターを弾いている。
リバーブはまだデジタルリバーブが出始めていたのかなかったのか……。デジタルだとしたらYAMAHAのR1000だと思う。その前だとしたら、ホーク技研のスプリングリバーブを使っていたかもしれない。
当時はまだまだデジタル機器が性能が悪く、しかも高価だったから貧乏人には辛かった。

 4 ムササビブルース  4.28

たくき よしみつ 作曲    演奏:KAMUNA(吉原寛治、たくき よしみつ)

KAMUNAの2枚目『Engage』から。
吉原センセにジャズギターを教わり始めたのは37歳のときだった。『マリアの父親』で「小説すばる新人賞」をもらったときとほぼ同じくらい。
貴花田(当時)が宮沢りえと婚約発表した日に、「俺もなにかしなくちゃ」と思って、近所の音楽教室の門を叩いたのがきっかけだった。
あの頃はギターでドレミファもちゃんと弾けなかった。
ドレミファとハノンの運指練習が何回かあって、「じゃあ、なんか曲をやってみようか」となったとき、最初に教わったのがFのブルース。
ふうん、これがジャズのブルースというものなのか……と。
で、かっこいいテーマを作ったのでやりましょう、と吉原センセを口説いて……。1年後、なし崩し的にKAMUNAが結成されたのだった。
アドリブソロは最初に僕が、次に吉原センセが弾いている。
吉原センセに「ものすごくオリジナリティのあるソロだね。すごくいいよ」と誉められたのを覚えている。

 5 Home In The Rain  6.37

たくき よしみつ 作曲   演奏:KAMUNA(吉原寛治、たくき よしみつ)

これも同じくKAMUNAのアルバム『アンガジェ』から。
地味な曲だが、たまに聴くとなんとも落ち着くというか、リラックスできて、いいテイクだった。
このアルバムはKAMUNAのベストアルバムだろう。
録音機はAKAIのDR-4というやつで、これはすごく音質がよかった。
4トラックしかなくて、その後、仮想トラックを増やせる仕様にバージョンアップした。今まで使ったデジタル録音機の中ではいちばん音質がよかったのではないかと思う。
この頃は卓がサウンドトラックス社(イギリス)のPC-MIDI24という、大人二人でも持ち運ぶと腰を痛めそうな鉄の塊で、中古を百数十万円のローンを組んで買った。
売るときはたったの2万円だったのが哀しいが、まさにアナログからデジタルへの過渡期だったのだなあ。
アナログのよさとデジタルの利便性が両方うまくバランスが取れていた時期かもしれない。
ベースは脚本家の小中千昭さんからもらったハンドメイドのすばらしいベースを使っているのだが、ほとんどはそのベースを実際に僕が弾いた音をサンプリングしたもので打ち込みしている。最後のフェイドアウトのところで、それまでしっかりリズムを刻んでいたベースが突然勝手なことを始めるが、あそこは自分でリアルタイムに弾いた。

 6 森からの信号  5.43

たくき よしみつ 作曲

これは1枚目の『狸と五線譜』からの再録。
実は今回の再録にあたって、ジャンベやログドラムなどを追加してみようと思って、元の音声ファイルをCubaseに読み込んでみたのだが、速度を何に合わせてもずれる。デジタル録音しているはずなのにおかしいなあと思っていろいろ理由を考えてみたところ……。
この曲を録音したとき、自然界の音の素材を使って、自然をテーマにした音楽を作るのに、ドライなデジタル録音では暖かみがなくなると思い、わざとシーケンサー(ああ、この言葉も懐かしい)の速度ダイヤルを微妙に手で左右に回しながら「揺らぎ」を与えたのだった。
それが仇となり、あとから音を追加しようとしたとき、ループデータなどが貼り込めなくなってしまったわけだ。
まあ、作ったときの気持ちを尊重して、これはこのまま、リマスターだけして収録した。

 7 アンガジェ  6.58

たくき よしみつ 作詞・作曲
Musicians
 吉原寛治:Electric Guitar   堺敦生:Keyboards   たくき よしみつ:Guitar   鈴木哲士:Bass


今、このライナーノートを書きながら気がついたのだが、今回収録したテイクでKAMUNAのアルバムからのものはすべて『アンガジェ』からだった。
やはり『アンガジェ』がKAMUNAのベストアルバムなのか。
タイトル曲にもなったこの曲はものすごく苦労した。
ドラムは諦めるとして、ベースはどうしても人間に弾いてもらいたいということで、何人か候補にあがった末に、結局てっちゃんにやってもらった。
ピックアップが錆びついてちゃんと音が出ないギブソンのベースを持ってきた(懐かしかった)のだが、ネックは反っていて音が合わないし、モケモケの音でいくら調整しても音が立たないしで、どんよりとしたムードで録音したのを覚えている。
僕もすごく精神的にまいっている時期で、いろんな人に迷惑をかけた。
このテイクはなんといっても吉原センセのソロ。何度聴いても飽きないなあ。

 8 鶴(Remix Ver.)  4.17

小松洋支 作詞、たくき よしみつ 作曲

これも、『So Far Away』で録り直したが、『狸と五線譜』のほうのテイクを入れた。
今回、ベースを追加したのだが、やはり「揺らぎ」録音をしていたらしくて、機械的な打ち込みでは合わなくて、リアルタイムで打ち込んだやつを、何度も何度も聴きながらマウスで微調整……という偏執的な作業になった。
このイントロ部分、今は弾けない。若い頃は、今より指が動いていないはずなのだが、ずいぶん力業的なことをしていたのだと思う。

 9 悠久 -森の祈り-  3.30

たくき よしみつ 作曲

これは「タヌパック阿武隈」で初めて録音したもの。
それまで何度もパソコンソフトでの録音環境を構築しようとして失敗し、半ば自棄になって時代遅れのシーケンサーを使い続けていたのだが、阿武隈の6坪のスタジオが完成したのを機に、今度こそ諦めずにやろうと、数か月かかってなんとかここまでこぎ着けたのだった。
エスニック系のサンプリングデータは『狸と五線譜』を作ったときよりはるかに高音質になっているはずだが、実際にやってみるとそれほど差が感じられない。
というか、昔のローランドU110とS330を同時駆動させてやっていたときのほうが感動的な作品になっていたりする。
でも、しょうかんさんが設計し、よりみち棟梁や愛ちゃんが大工をして、僕も工事にいろいろ加わって作り上げた「タヌパック阿武隈」の記念すべき第一作だから、このアルバムに収録しておくべきだと思った。
楽器類はすべて打ち込み。それと自分の肉声だけで構成したテイク。

 10 阿武隈のクリスマス  2.38

たくき よしみつ 作曲

これが確かタヌパック阿武隈での第2作め。曲も阿武隈で作っている。
毎年、クリスマスを前に「阿武隈のクリスマス 2009」「阿武隈のクリスマス 2010」……というように作り続けようと思ったのだが、結局、1曲作っただけで翌年は怠けてしまった。
家族コンサートのようなほのぼのとした感じを出したいと思った。

 11 カムナの調合(弾き語りVer.)  4.46

たくき よしみつ 作詞・作曲

これは今回、新たな仕事場「タヌパック日光」での最初の録音。
持ってきたパソコンがなかなかまともに動かなくて、録音ができる状態になるまで半年以上かかった。
HDDを交換、CPUを中古ながらマシなやつに交換、DVDドライブも壊れて交換、メモリ増設、ファンがうるさいので交換……と、一体どれだけの作業をしたことだろうか。
今もちょっと動作が怪しい。一度ちゃんと立ちあがると、そこから先は安定しているようだが、ちゃんと立ちあがらないときがある。
他の曲をリミックスした後、2012年7月22日、23日の2日間で演奏、録音、ミックスダウンをした。
このテイクも打ち込みは一際せず、シェイカーも自分でシャカシャカ振っている。

ちなみに、サビの歌詞に出てくる「ひふみよい は むなやこと へ」というのは、カタカムナのウタヒの中でいちばん有名な「ヒフミヨイの歌」と呼ばれるものから抜き取っている。
いろは歌と同じように、50音すべてが1回ずつ使われている歌。

ヒフミヨイ マワリテメクル ムナヤコト
アウノスヘシレ カタチサキ
ソラニモロケセ ユエヌオヲ
ハエツヰネホン カタカムナ


どういう意味か、という議論はいろいろあるのだが、この「カタカムナのウタヒ」なるものが楢崎皐月の「発明」でインチキなものであったとしても、アイデアとしてものすごいし、頭いいなあ、と思う。
ヒフミヨイ ムナヤコト は、言うまでもなく日本語の1、2、3、4、5……の呼称である「ひいふうみいよいつむうななやここのつとお に呼応している。
それが「廻りて巡る」と読み取れるフレーズで結ばれている。
カタチサキ は、「形が先」ともとれるし、カタは「形あるもの」=目に見えるもの。カムナは「形のないもの」=目に見えないもの、というような想像をしていくと楽しい。
相似象学会を率いていた宇野多美恵は、音を一つ一つばらしていろいろな意味を重層的に与える作業に没頭していたような印象があるが、僕はもっと感覚的に、音律的に向き合ってみたほうが、単純にこのウタヒの意味に迫れるような気もするのだ。
例えば、まったくのでたらめだが、

ヒフミヨイ マワリテメクル ムナヤコト ⇒ものごとは循環しているという真実。
発生、誕生から成長・生長(ヒフミヨイ)〜老化・劣化〜死(ムナヤコト) という流れは「廻りて巡る」、つまり、循環している。

アウノスヘシレ ⇒ その循環の輪がつながる(合う)ための仕組み・方法(術=すべ)を知れ

カタチサキ ⇒ 人間には形のあるものしか見えていないが、

ソラニモロケセ ⇒ 形あるものはすべて劣化し、形を変えて姿を消し(物エントロピーから熱エントロピーに変化して)、最後は水蒸気となって空を上がり、宇宙に消えなければならない(空にすべて=もろ=消せ)

ユエヌオヲ ⇒ その理由(ゆえ)・定めを無視すれば、

ハエツヰネホン ⇒ この世は破滅し、続かなくなる。
これがカタカムナの教えである……というような感じかなあ。
こういうトンデモは楽しい。



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